高名なP.F.ドラッカーは社員のモチベーション・責任感についてどう考えたのでしょうか。考え方の一つとして MBO(Management By Objectives and Self-Control)を提唱しています。
MBO(Management By Objectives and Self-Control)は、日本では「目標管理」と訳され、成果主義人事制度の理論的背景となりましたが、そもそもの概念はノルマ主義とは全く反対に自発的に社員を動かすにはという問題意識から出発しています。本稿ではMBOの概念を改めて整理すると共に、企業経営に有益なMBOの在り方を検討してみます。
一昔前であれば、「我が社にも目標管理が導入され、目標への達成度で人事評価がされるようになった」という話をよく聞きました。所謂「成果主義人事制度」の導入の事です。皆さんの周辺でも環境が厳しい分、部の目標も高めに設定され、なかなか目標を達成できないという状況があったかもしれません。成果主義人事制度は、主に企業の総額人件費抑制の為に個人業績連動型給与導入を行ったものでした。結果は皆さんもご存じの通り、成果主義人事制度は失敗する場合もあり、最近では余り聞かれなくなりました。
成果主義人事制度は、会社の目標を部署のノルマに落とし込み、部署のノルマを従業員単位に割り振り、そして、そのノルマへの達成度で給与が決定するという仕組みです。
MBO(Management By Objectives and Self-Control)を提唱したドラッカーの意図は何だったのでしょうか。MBOは日本では「目標管理」と訳されましたが、実際には「目標による管理/経営と自己統制」と直訳できます。即ち、個々の社員に自分で目標を設定させ、その進捗や実行を各人が自ら主体的に管理する考え方です。本人の自主性に任せることで、主体性が発揮されて結果として大きな成果が得られるという人間観/組織観に基づいているようです。ノルマ管理とは正反対の考え方なのですね。
もう一つ大事な点は、ノルマ管理は結果の評価であり、MBOは経営の方法論を言っているということです。成果主義人事制度は結果を評価しそれに応じて給与、賞与を決定する考え方です。一方、P.F.ドラッカーの目標による管理は、目標を使って経営を行うこと、つまり経営をどう行うかという方法論を論じたものです。方法論なき結果の管理は単にノルマ主義になってしまい、成果につながるとは考えにくいものです。
ドラッカーは経営哲学者と呼ばれており、MBOの具体的な実装について述べている訳ではありません。そこで、制度として実現する際には解釈の入り込む余地があります。日頃、経営に取り組んでいる方はお分かりになるでしょうが、目標による管理には組織が従業員の立てる目標にどのように関与するかという視点がありません。即ち、個々の従業員の自主性を重んじながら、それが組織目標として統合される為に何が必要なのかという言及がありません。
下記にMBOを制度として実現した場合の研究を記述した文献を参考として挙げます。
〔GE研究の結果〕
参考文献:http://www.jexs.co.jp/column001.html
批判(criticism)は、目標達成にネガティブな影響を持つ。
一方的な称賛にはあまり効果がない。
個人の仕事の成績は、ある目標が達成された時、最も向上する。
批判的な評価から起こる個人の自己防衛は、業績をお粗末なものにしてしまう。
コーチングは、日々行なうべきもので、年に1回だけのことではない。
上司と部下が一緒になって目標設定すると、業績が向上する。
業績を向上させるために面談は、昇給や昇進とは別々に行うべきだ。
目標設定の手続きに従業員を参加させると、好ましい結果をもたらす。
目標達成度で給与・賞与を決めないこと!
当たり前のことですが、目標達成度は組織貢献度とは異なるので、目標達成度をそのまま人事評価に使わないこと! ある社員は低い目標を立てた為に目標達成度が高く、ある社員は高い目標を立てた為に目標達成度が低いということがあります。給与・賞与は組織に対する貢献度によってなされるべきであり、目標達成度と直接の関係はありません。勿論、低すぎる目標は業務に消極的な印象がありますし、高すぎる目標は見込みの甘さ故かもしれません。社員の指導育成に役立て行くことは考えられます。
上記のGE研究から得られるMBOの在り方は以下の通りとなります。
上司は部下を支援する立場である
部下の目標設定については、上司が部下に組織の現状を伝え、それを勘案した上で部下に自主的な目標設定を指導する。
目標設定は上司と部下が一体となって行う。部下の目標達成は、部下の責任であると共に上司の責任でもある。
上司は部下が目標達成できるように日々、支援を行う。
個人業績は客観的な指標を使う
上司の部下への評価は「批判」にならないように、極力避ける。飽く迄、客観的指標を目標に設定し、評価ではなく「どうすれば目標達成できるか」を一緒に考える。
上司の主観的な評価は、上司が人間である以上、常にブレが生じる可能性がある。これは部下の上司に対する不満に直結する。又、部下の眼は上司の歓心を得ることに向きがちになる。
昇給や昇進とは切り離す